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◇ 第一章 マーケティングの危機-----お金では解決できない! ◇ |
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◆ ダイレクト・マーケティングは混乱をつきぬける たしかにダイレクト・マーケティングはただの伝統的な広告に比べれば役に立つが、驚くほど高くつく。ダイレクト・マーケティングが奏効し、2パーセントのレスポンス率があったとすれば、たいていの会社のマーケティング担当者は昇給してもらえる。しかし考えてみてほしい。2パーセントということは、驚くなかれ残り98パーセントのターゲットにはゴミ箱に捨てられ、無視され、拒否されている、ということを意味するのだ。 都会の喧騒に疲れたひとが田舎暮らしを始めた。するとほかのみんなも我先に従った。 牧歌的な風景はたちまち人々で埋まってしまう。ちょうどこんな話みたいなものだ。一つプロモーションが当たれば、みんなが真似をする。混乱をつきぬける妙策が見つかったとしても、それはたいていは短命に終わってしまう。 事実、スーパーマーケットの棚はメーカー同士取り合いとなっている。酒屋はいつ行っても懸賞づけだ。アメリカ中の郵便箱は衣服、ガーデニング、あるいは万年筆のカタログであふれんばかりとなってしまっている。 ダイレクト・マーケティングの担当者はこの供給過剰の事態にコンピュータで武装した。デジタルで記録された顧客情報を駆使し、マーケティング担当者はデータベースを照合し、突き合わせ、素晴らしい顧客リストを作る。そしてそれをもとにして絞り込んだターゲットに照準を合わせてメッセージを送るというわけである。例を挙げよう。手元にあるデータベースを使って、あるダイレクト・マーケティング担当者が次のキャンペーンで狙いを定めた見込み客が、独身女性、民主党員、年収58000ドル以上、クレジット・カードで借金なし、という特性を持っているとする。この程度の特性によって絞り込むことはたやすい。そこでダイレクト・マーケティング担当者たちは対象顧客に向かって競争を始める。 もちろんデータベース・マーケティングはどんなマーケティング担当者にとっても武器となりうるが、すべての土足マーケティングの手法と同じく、すぐにその効き目を失う。マーケティング担当者が次々に参入すればするほど避けがたく混乱が増していく。 土足マーケティングの最終形態の事例を映画「タイタニック」に見てみよう。ジェームス・キャメロン監督は合理的な判断をするマーケティング担当者であれば使うことのない巨額の予算を使い、結果、混乱を突き抜けることができた。ハリウッドは「ゴジラ」のマーケティング・キャンペーンでこれと同じ手法を使った。このため、ほかの映画は、ひとめ見ただけでは予算を十分ペイするに足る興業成績が残せるかどうか、わからなくなってしまった。 ナイキはスニーカーを売るのに似たようなアプローチを取っている。この「合理的な無駄使い」とでも呼べる戦略はほかでも見ることができる。特にインターネットで。その考え方の背景にあるものは、「オール・オア・ナッシング」のサイコロをころがすギャンブルっぽい思想がある。 基本的には、混乱は非常に根が深いものがあるので、新しいマスマーケットを形作ることができる製品を打ち出せば、その見かえりはとても大きくなるのだ。 もちろん、それが効果ありとわかれば、いくら使ってもいいというものだが、新しく別の種類の問題がもちあがってくる。超えなければならないバーはさらに高くなる。そして、結局儲けるのは時間帯を切り売りするメディアだけ、ということになる。 |
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