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◇ 第一章 マーケティングの危機-----お金では解決できない! ◇ |
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◆ マス・マーケティング、四つのアプローチ バーンズ&ノーブル書店(Barnes & Noble)の雑誌売場をちょっと見ただけでも、このデジタル社会がますます混乱の度合を深めていることがわかることと思う。現在発行されている一般誌を仮に一日24時間、一週7日間休みなく読みつづけたとしても読み切れるものではない(発行部数のさらに大きいビジネス誌を勘定に入れなくても、だ)。 もはやマスという市場が存在しないことは明らかだ。この深刻な事態の原因はマーケティング担当者が、たった一回きりのコミュニケーションでは多くの人々に届くことができないことにある。スーパーボウルの広告代金が高い理由はここにある。人気のビッグイベントなら、視聴者の半分を画面に釘付けにすることができるから、土足マーケティングには恰好の媒体というわけである。 伝統的な広告媒体だけではなく、マス・マーケティング担当者はほかにもあの手この手を使って、われわれを情報の渦に巻き込み、食傷気味にしてくれる。次の四つのアプローチが、ある。 1.まずはじめに、マス・マーケティング担当者は、とんでもない場所に広告を打つ。伝統的なテレビコマーシャルにあき足らず、より広く、よりとんでもない媒体に、お金を落としている。例えばキャンベルスープ社は駐車場のメーターに。メーシーズ百貨店はパレードに。ケロッグ社はインターネットのホームページに(さぞかしたくさんシリアルが売れたことだろう)。 かつてマス・マーケットで有効だった戦略の効き目がなくなってきている。特に富裕層とよばれる層には、そうだ。金持ちたちは一般的にテレビをあまり見ない。 だから、土足マーケティングの担当者はなんとかして彼らに届くために、よりわかりやすい媒体を探そうとしてきた。 これからご紹介するのは、涙ぐましい数々の事例である。 食料品店のレシートの裏にクーポンを印刷した。シリアル棚の前の通路に、ニューヨークのイエローキャブの屋根に、ホッケーの試合場の壁に、広告を載せた。 フォックス社(Fox)が思いついた素晴らしい広告媒体がある。キャッチャーの身につけているレガースの肩。おかげで視聴者は、試合を楽しんでいる間中、広告を目にすることになる。 2.第二に、広告はより話題性をもたせ、よりエンタティメント性を強める必要がある。コカ・コーラは人材派遣業のCAA社と契約し、ハリウッドの一級の監督に自社のコマーシャルを撮らせた。キャンディーズ(訳注 Candies百貨店でしか買えない、米国百貨店のPBプライベート・ブランドで、対象はジュニア=テイーンズから二十代前半まで)はトイレに座る女性の写真を雑誌広告にした(靴屋さんだよ!)。おかげでスパイク・リー(訳注 Spike Lee有名な米国の監督)経営の広告代理店は昨年5億円もの売上げになっている。 当然のことだが、コマーシャルがより過激になればなるほど、混乱は増すにきまっている。広告マンが競争相手に勝つため頑張れば頑張るほど、バーの高さも、上がっていく、というわけだ。ライバルを打ち負かし、生活者の注意をひきよせるため、前回の広告より、過激さを増してゆく。 第一級のテレビコマーシャルを作成するためには一分あたりで換算すると、ハリウッド映画よりはるかにコストがかかる。特殊撮影(例:話をするカエル)、コンピュータグラフィクス、凝った編集などは、いまや必須である。 コマーシャルにおけるエンタティメント性が高まった副作用のために、マーケティング担当者が市場と接触できる時間はますます短くなってきている。15秒、10秒、いや12秒(より少ないコストで、よりたくさん視聴者を『じゃまする』ためには、短いほうが望ましい)の短時間で一瞬のうちに注意をひけ。ロゴや商品ベネフィットやじっくりと話しかける時間はなくなるが、それも致し方ない。 土足マーケティングの効果を測ってみようか。 昨夜観たお気に入りのテレビ番組の間に流れたコマーシャルのスポンサー会社名をすべて書き出してみよう。昨夜ネットサーフィンした時に見つけたバナー広告のスポンサー名を、すべて書き出してみよう。いかがだろうか。もし10パーセント以上思い出せたとしたら、あなたは例外である。 3.マス・マーケティング三番目の法則は「いつも面白くて新鮮」であるためにしょっちゅう新しいキャンペーンを打つ、というものがある。トニー・ザ・タイガー、まぐろのチャーリー、そしてマルボロマンなどの広告キャラクターたちは、それぞれ数十億ドルものブランド・エクイティがある。それらの会社のマーケティング担当者が、過去40年以上もの長きにわたってキャラクターをブランドの代表としてのスポークスマン(スポークスアニマル)となるようにこつこつと時間と資金をかけて築き上げてきた賜物である。 一方ナイキは、あの、賛否両論を呼び、一時代を画した最も効果的なロゴ、スォッシュを、広告シリーズからはずしている。アップルコンピュータは毎年キャッチフレーズを変更している。ウェンディーズ、マクドナルド、バーガーキングは次から次と新しい試みをしている。どれが一番注意をひくことができるかと。 これら企業のマーケティング担当者は、そういった瞬間瞬間の「注意」の積み重ねによってブランド認知の広告キャンペーンを行っている。土足マーケティングだ。注意をひくことなしに、広告は成り立たないし、存在価値もない。 4.四番目でこれが最後になるのだが、これはほかの三つに比べるとより深遠なものだ。マーケティング担当者はマス広告からダイレクト・メールやダイレクト・プロモーションに重心を移しつつある。彼らは年間広告予算の52パーセントをダイレクトメールやプロモーションに使いはじめている。過去数年でかなり増加した。 米国で昨年消費財広告に使われた2000億ドルのうち、1000億ドルが、ダイレクトメール、店内プロモーション、クーポン、差込み広告、などの従来とは違う形態の媒体に使われている。昨年一年だけでも、ブンダーマン(Wunderman)、カトー(Cato)、ジョンソン(Johnson)の各社はクライアントに16億ドルもの請求書を発行したはずである(そのうちの一社がAT&T)。 ぶ厚いレクサスのカタログが自宅に送られてきたり、近所の酒屋さんでスピードくじに当選したりしたら、あなたは、このダイレクト・マーケティングの努力を肌で感じることと思う。広告マンたちは役立つと思うからしているのだ。それらダイレクト・マーケティングの施策は、ただの単なる広告に比べれば、「じゃまする」のに向いている。そりゃただ単に黒板に飾っておくだけよりは、効果が測定しやすいだろうと思う。混乱を前に闘うマーケティング担当者にとっては新しい武器として期待できるかもしれない。しかしそれにしても結局のところは郵便箱のジャンクメール数が一日3000ではなく、5から10通になる、というだけの話なのである。 そして、スーパーマケット棚のスペース幅が多少広がったところで、売上が見違えるほど伸びるわけではないことを銘じておこう。 |
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