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◇ 第一章 マーケティングの危機-----お金では解決できない! ◇ |
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◆ 生活者は忙しくて、あれこれ見るひまはない 生活者の混乱に加え、新たな問題がマーケティング担当者たちを待ち構えている。生活者はもはやこれまでと同じような意味で「構って欲しい」とは思っていない。製品の品質は飛躍的に向上した。実際、もはや品質では車にしてもコーヒーメーカーにしてもあるいはシャツにしても、購買要因にはなり得ない。品質は向上し、当然だがこれからもずっと高品質を保ちつづけるだろう。われわれマーケティング担当者は、もはや生活者とともに、はるか遠いところにまで来てしまったのだ。九0年前、生活者の家の中にブランドのついた製品を見つけ出すことは困難だった。当時の製品の品質は、問題の多いものばかりだった。買うには勇気がいった。現代では、品質は格段に向上し、安心して買い物ができる。缶詰。パン。香り高いコーヒー。水さえ、お金を出して買うものになっている。結果として、われわれ生活者は、日用品にいたるまでお気に入りのブランドができてしまっている。それでもなぜひとはお気に入りブランドをスイッチしようとするのだろうか。 もちろんわれわれのもっているブランドに対するこだわりは、小さいものだ。ケーキ・ミックスをすごい発明と驚きをもって迎えられたのはつい最近のこと。ほんの数年前、フリークエント・フライヤー・システムで航空会社を選ぶことにさんざん迷っていたのと同じ私たちが今日はどのヘルスケアを選ぶか、真剣に悩んでいる。そしていったん選んだら、みんなそれなりに納得するものなのである。 メンズスーツの有名メーカーが一世を風靡したのはいつのことだろう。「全国チェーン」の百貨店が人気だったのは。 「成功している」全国規模の航空会社の旗上げが最後にあったのは。 ファーストフードの「全国制覇」社は。 こういったことは、今後も起こらないとはいえない。しかし、めったにないことだと思う。なぜなら、私たちは、すでにこういう「全国的」メジャーなサービスに慣れてしまったからである。 明日、新製品の洪水が止まったとしても、だれも気がつかないと思う。 それでも、「新しい」ものたち(新しいブランド、新しいキラー[killer]商品、新しいカテゴリー商品)のもたらすであろう成功の暁にちらつく巨額の利益の誘惑に勝てず、世のマーケティング担当者は生活者をメッセージの洪水でおぼれさせる。顧客をMCIからスプリントに、ユナイテッド航空からアメリカン航空に、リーボックからナイキにブランドスイッチさせることは不可能なことではない。だからマーケティング担当者は張り切る。ある調査によれば、平均的なアメリカ人が一年に受け取るこのようなマーケティングメッセージは100万にもおよぶという。即ち、一日あたり3000通。 この数字を見るとだれもが多いと感じる。でも、近所のスーパーにぶらりと行くだけであなたは一万ものマーケティングメッセージを受け取っているのだ。テレビを一時間見ると40かそれ以上、新聞なら100。私は決して大袈裟に言っているのではない。(Tシャツの胸にある)ロゴたち、道端の看板、郵便箱を溢れさせる郵便物の数々、ダイレクトメールのカタログ、勧誘電話、などなど。ほら、いま言った数字くらい、簡単にクリアできそうでしょう? 100年前にはスーパーマーケットなるものはこの世に存在しなかった。テレビ番組はおろか、ラジオさえ、なかったのである。 |
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