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◇ 序文 ◇ |
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ドン・ペパーズ 「ワン・トゥー・ワン マーケティング」共著者 私は、いずれ全世界のビジネスパースンにとってこの本で述べられている主要なコンセプトが常識になると確信している。セールスやマーケティングに携わるひとのだれもがこの「パーミションマーケティング」の法則を理解し、いかに自分のビジネスに活かすことができるか語り合うことも、そう遠くない日のことと思う。 私がなぜそこまで確信を持って言うのか、種を明かそう。まず、あなたの忙しい生活を思い浮かべてほしい。あなたが抱えている種々のやっかいな問題は、すべてあなたの忙しさ、即ち、時間のないことや、やるべきことをすべてやるために消耗するであろうエネルギーの問題ではないだろうか。たしかに科学技術の進歩は、われわれの両親の時代に比べると格段に快適な生活を過ごすことを可能にした。単調なルーティン仕事はすべて機械がやってくれる。でも忙しさは変わらない。それどころか、日を追う毎にますます忙しさの度合は増している。 なんでこんなことになったのか。 理由は簡単。ますますあなたの注意をひくものごとが外界から飛び込んでくるからである。毎日毎日、あなたの時間はみるみる何ものかに吸い取られ、大切なお金は投資先を求め、常に何事かをしなければ落ち着かない思いに駆られる。すでにあなたはパンク寸前だ。にもかかわらず、状況は日を追うにつれひどくなる一方である。 どちらにしてもあなたの人生から捻出した貴重な時間である。百十五あるケーブルテレビの番組を観る、二十五通の電子メールに返事を出す、自宅近所にあるファーストフードの三十店から一店を選んで食事する、プールで日光浴する、お年頃のお嬢さんとゲームを楽しむ・・・・・・・・などという多々ある「時間の過ごし方」を捨て、「さあ、ネットに時間を使おう」という重要な決断をしたのだ。 どうだろう。これが現実だと思う。あなたの注意をひいたり、あるいは注意を保ちつづけるために割ける時間は、ますます希少な資源になりつつある。そして、自由経済の鉄則だが、資源が希少になるにつれて、その価格は、上がっていく。 そして、この、われわれを含め、ある一部のひとには単なる経済原則でしかないことが、セス・ゴーディンにとってはビジネスチャンスと映っているようだ。 「パーミション・マーケティング」の基本となる考えかたは、とてもシンプルなものだ。われわれ人間は等しくある一定の時間しか持っていない。だからこそ、その貴重な時間をどのようにうまく使うのかということは、みんなにとって重要問題だ。「何かに注意を払う」ということは、別の言葉でいえば「認識」である。なんらかの認識器官の働きが、必要になる。そこで、未来のマーケティングでは、生活者の注意を、最初にいかにしてひきつけるか、ということが重要なポイントになる。即ち、生活者をあなたとの対話(もちろん、インタラクティブ=双方向のものだ)に巻き込む、ということになる。テレビ番組を楽しんでいる真っ最中にコマーシャルをはさんで邪魔したり、ぶしつけな勧誘電話やダイレクトメールで日常生活に割り込んだりする代わりに、未来のマーケティング担当者は、まずは「よろしかったら、販売過程に参加されますか? いかがですか?」と「パーミション」(許可)を求める。生活者は、ひょっとしたら、商品やその品揃えについて知りたいと思い、「パーミション」をくれるかもしれない。 インタラクティブにできない世界ではこういうことは全く馬鹿げていて、突拍子もない夢物語かもしれない。ところが、インタラクティブな世界は、もう実現しているのである。それはあまりにも突然のことなので、だれもまだ準備ができていないかもしれない。しかし、競争のルールは、いまや変わったのだ。 インタラクティブな技術は二つの全く異なるビジネスの姿をもたらす。一つは、生活者が従来に比べてとてつもなく速く、かつ簡単に情報にアクセスすることができるので、マーケティング担当者にとっては、自分たちの商品が簡単に汎用品化されてしまい、利益が圧迫されてしまう、という現象だ。 ウェブ上でゼネラル・モーターズの新車を、近所のディーラーより五十ドルも安く買うことができる。かと思えば同じゼネラル・モーターズ社の株を、たった七・九五ドルの手数料を払うだけで、買うこともできる。これらのことは生活者にとっては福音であるが、逆にいうと、企業にとっては、利益をあげ、顧客ロイヤルティ(忠誠度)を高めることがますます難くなってきている、ということなのである。 とはいえ、インタラクティブ性は、顧客と企業の間にまるで個人対個人のような対話を実現させるし、一旦そうやって築かれた絆は、時間が経てばたつほどより強く、太くなっていくものだ。このパーミション・マーケティング戦略は、商品の汎用品化を防ぐだけではなく、生活者に対して、より価値のあるサービスを届けることを可能にする。それは、汎用品の価格比較がタイムリーにできるなんていうレベルを超えたものだ。 顧客との対話は昔の(組み立て工場、大量生産、大量配送、マスメディアによる広告が生まれる前の時代の)店舗オーナーなら普通にやっていたことだ。当時ものを売る、ということは、顧客の前向きな気持ちを前提とした、品格ある、より紳士的なプロセスだった。大量生産時代の到来が、この旧き良き習慣を、ぶちこわした。結果として、現代の経済を定義づけているのは、標準化された製品組み立てライン、広大な地域に住む顔の見えない顧客向けの、マスメディアに載せられて発信される標準化された広告メッセージ、となる。このような状況では、個々の生活者を一人ずつ個人として扱い、まるで対話しているように違ったメッセージを送るなどというコストのかかる方法ではなく、全員に同じメッセージを放送するコスト優先策が取られがちだ。 しかしながら、現代のインタラクティブ・テクノロジーの発達は、相手が数百万の生活者であってもまるで一人であるかのようにキメ細かく対応することを低コストで可能にした。 インタラクティブ・テクノロジーは、マーケティング担当者が低コストで生活者との間でワン・トゥー・ワンの関係を築くことを可能にした。パソコンのマウスクリックやボタンを押すだけで音声反応ができたり、駅売店での販売データが得られたり、という双方向の対話ができるようになったおかげである。これはどういうことかというと、生活者が再びマーケティングプロセスに入り込む、ということである。インタラクティブな世界におけるマーケティングは、顧客とマーケティング担当者相互のコラボレーション活動ということができる。即ち、マーケティング担当者は生活者の買い物を手助けするし、生活者はマーケティング担当者が販売することを手助けする。 ビジネスとして考えた場合、上記のようなことをうまくきっちりとやれば、顧客の、あなたとの対話や関わりは、ロイヤルティを高め、顧客を、「理想の顧客」に、してくれる。顧客が深く関われば関わる、即ち、あなたの提供するサービスや製品をよりよく仕上げるための共同作業に深くコミットすればするほど、忠実な顧客になって、競合社に簡単にスィッチしなくなる。 まるで来期の販売実績のために今期汗を流すみたいだって? いかにも、その通り。 生活者としてのあなたは、とどまるところを知らない新しい提案や誘惑、値下げのお知らせ、マネーバック保証制度の広告などに取り囲まれて暮らしている。 これらは大量生産経済システムの産物で、「もっと特別仕様の」「もっと革新的な」モノやサービスのための顧客を探している結果なのだ。莫大な量の製品を売りきるために、世界中のマーケティング担当者たちはありとあらゆるところに、まるでゴキブリのように入り込み、与えられた時間の一秒たりとも無駄にせず、小さなスキを見つけてはだれかが見つけてくれることを期待して宣伝文句を貼り付けていく。結果、あなたの生活は以前なら想像もつかないようなさまざまな機会、選択肢、種々のメッセージによってあふれんばかりになってしまう。そしてそれらのメッセージはあなたの手にゆだねられている。一瞬であっても注目されれば、それで目的を果たした、とでもいうかのように。次々やってくるメッセージを一言も聞き漏らしてはならないので、常にアンテナを全開にしておかなければならない。 マーケティング担当者は、自分が伝えたいメッセージを、あなたの目の前に置きたがる。 しかし唯一の問題は、あなたが本気でそれらのマーケティングメッセージを受け取りたいかどうか、である。 インタラクティブ性は、ビジネスにおけるこの悪循環を断ち切る。現代は低コストでインタラクティブを可能にする技術はいくらでもあるから、「商品を売ること」と「伝えたいメッセージに耳を傾けてくれること」の両方に対する顧客の「パーミション」を得ることは可能なことである。生活者にもっと情報を送って良いかどうか、ダイレクトに尋ねることができる。彼らは新製品あるいはサービスについての情報をもっと知りたいと思っている。だから、企業としては、メッセージを提供することで報いることができるのである。 方法は無数にある。クーポン、現金によるインセンティブがそうだ。ゲームをしてみるのもよい。ポイント・プログラム制度も結構。コンテストや絵画のスポンサーになるという手もある。しかし、何をどのようにしようと、売るということに対しての見こみ客の「パーミション」を得たのなら、非常に価値の高い資産を得たのと同様で、いかなるライバルが現れても、あなたから奪い取ることはできない。見込み客の協力と参加を得たのだから。これでこの販売活動は、顧客とあなたとの共同作業となったわけである。 そうなのだ。私の予言では、地球上のすべての企業がパーミション・マーケティングを受け入れるであろうというものだ。ライバルから顧客を奪い取る攻撃的な武器として、あるいは電子商取引の中での「ありふれ化」の波から身を守る防衛的な武器として。 インターネットのワールド・ワイド・ウェブ(WWW)のインタラクティブな世界で、お客さま相談窓口で、営業の最前線で、競争ルールを学びたいひとたちにとって、この本は大いに参考になるだろう。電子商取引で「ありふれ化」の脅威にさらされ、利益の圧迫を受けているのであれば、この本はまさにあなたにぴったりと言って良い。 自分は、そんなこと期待しちゃいないよ、とおっしゃるのであれば、どうぞ他の本をお読みください。 しかし。 この本を読まずして、ほかに何をしようというのですか? |
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